富山県出身首都圏若者ネットワークacoico

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黒部の魅力。(前acoico代表がUターンして感じていること)

代表として、5年にわたりacoicoを引っ張ってくれた前代表石田智章さんは、昨年4月に黒部市にUターンしました。来月、ツアーで訪れる黒部の魅力を彼の視点で綴ってくれています。

 

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14年ぶりに生活の拠点を故郷に戻して感じたのは、自然風景の美しさと居心地の良さだった。1,000万人が暮らす都市では感じられなかった、満足感もあった。生活している実感がわいた。

 

季節が変わり、風景が変わり、食卓に並ぶものが変わる。春には雪解け水が流れ込む田んぼの代掻きをする人。夏には湧き水がたまる共同洗い場でゆらゆら揺れる西瓜。秋には家族総出の稲刈り。空が灰色におおわれ雪がちらつく頃になると、鮮魚売り場にはベニズワイガニ、フクラギ、ウマヅラハギが並ぶ。

 

農作業をするわけでも、海で魚をとるわけでもない。住まいと職場を行ったり来たりする毎日の中にこの土地とともに生きている感覚がある。そこが違った。腰を曲げて散歩するおばあさん、学校帰りにじゃれあう中学生、回覧板を持ってくる班長さん、近所に住んでいても名前は知らない。知らない人たちだが、他人ではない誰か。きっと家族や親せき、職場や町内会といった線をたどれば何かがつながっている。

 

黒部は北アルプス鷲羽岳(わしばだけ)に端を発し、富山湾へ注ぐ黒部川が主役のまちだ。全長85km、深海1,000mの海底までを含めると高低差は4,000mになる。山深い峡谷を除けば、多くの住民は平野部に住所を構える。山へ行くにも海へ行くにも車で10~20分あれば着いてしまう。

 

海辺のまちに住む私は、朝日を浴びて銀色に輝く立山連峰を仰ぎ見ながら出勤し、帰りは水平線に沈みかける夕日が田んぼに反射し、空が橙、赤、紫、青と色を変え薄暗くなっていく様子を眺めながら家までハンドルを握る片道30分が楽しい。職場までドアツードアで20分程度とありがたい環境だった都市生活に比べ、田舎に来てまさかの通勤時間延長だが心地よさを感じている。

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例えば、搾りたてたての幻の瀧を注ぎ、カジキの昆布じめを肴に杯を傾ける。田んぼの真ん中で家族と食卓を囲む夜は特別なものではないかもしれない。しかし自分の生活の前と後に何がつながっているかよくわからないまま、マンションの9階で寝て起きて地下鉄で通勤して、運河を見下ろしながら21階でパソコンをにらみ、遠く離れた誰かに電話をかけ…、どこでとれたか分からない何かを口に運び…。黒部では、普通の日常の中にある価値あるものに囲まれて暮らす、何とも言えない安心感があった。

 

その土地に住んでいれば、正月には皆だいたい同じように、昆布で出汁をとった鍋にごぼうと人参のささがき、さいの目にした赤い渦巻きかまぼこと焼き豆腐、ブリよりも脂身の少ないフクラギの素焼きのほぐし身を入れ、甘めのしょうゆで味付けした何とも形容しがたい具だくさんの煮込みをつくる。その具、汁もろともゆでた餅の上にかけたのがこの地域のお雑煮だ。ごちゃごちゃした独特の見た目からは、上品という形容詞とは真逆の、漁師町の勢いや荒々しさ、言葉よりも背中で語る雰囲気さえ漂う。

 

日常はありきたりで長く住んでいればその価値に気づくことは難しい。変わらない毎日を過ごし、毎年同じことをして、年をとっていく祖父や祖母を見て中学生だった自分は、同じように年を重ねていく姿を想像できなかった。したくなかったのかもしれない。今はもう会うことができない祖父が毎晩、銀盤酒パックからコップに並々注ぎ、ピーナッツをつまんでいた。自分が30代そこそこで似たようなことをしているとは思わなかった。同じものを食べて、それに何か価値があると気づき始めるとは思わなかった。そして、何より、十数年後に東京で出会った仲間たちを連れ、わが故郷の日常に触れてもらう旅を企画するとは想像もしなかった。

 

いつかUターンしようと思っても故郷でどんな仕事や活動をすれば、自分は満足し将来に希望を持って生きられるのかわからず、悩みながら県人会活動を続けた5年間だった。故郷の面白い文化、美味しい食べ物を通して集まり、過ごす時間は日常の中の物足りなさや不安を和らげてくれた。そうこうするうちに縁もない土地に親近感をもって、一緒に楽しんでくれる仲間たちも現れた。彼らと過ごすうちに、求めていた答えがなんとなく見つかった気がした。

 

石田智章 前acoico代表(2012年4月~2016年3月)

 

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